COLUMN
顧客と会社どちらが大事?マーケティングで知っておきたいこと。
顧客志向、顧客起点、顧客ファースト、顧客のジョブ、カスタマーサクセスなど、企業が掲げるスタンスや考え方にはたくさんの表現がありますが、
今やビジネスやサービスにおいて顧客を重視することの大切さは疑いの余地がありません。
ただ反面、行き過ぎた顧客第一主義が、企業の利益や体力を奪う事態に陥ることや、顧客に合わせ続け企業のアイデンティティを失っていくようなケースも出てきています。
一体、顧客と会社のどちらが大切なのでしょうか?
マーケティングの大家であるセオドア・レビットの言葉をヒントに見ていきたいと思います。
1.レビットの視点から考える
「昨年、四分の一インチ・ドリルが100万個売れたが、これは、人々が四分の一インチ・ドリルを欲したからではなくて、四分の一インチの穴を欲したからである。」
レオ・マックギブナ
上の一文はマーケティングの大家セオドア・レビットが著書「マーケティング発想法」の中で引用した言葉です。
「人は製品を買うのではなく、製品のもたらす恩恵の期待を買うのである」という考え方を示すために用いました。
今となっては「ベネフィット」という考え方を説明する際に用いられる、とても有名な「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である」という言葉が広がる基点になったとも言われています。
・レビットが重視したのはそのバランス
そのレビットは、マーケティングに関する多くの本質的な視点や考えを残しています。
60年以上経った今読み返しても、特にすばらしいと感じるのは、全体を通して実務や実践をも強く意識した内容になっており、「常に理想的なことと現実のバランスを取っている」ことです。
企業の中でマーケティングを推進していると、ついマーケティング志向を最優先に考えたくなることがあります。
ただレビットは常に、マーケティング志向を「推奨・推し進める視点」と「手綱を引き抑える視点」の両方を用い、適切なバランスを維持していたように思います。
2.顧客志向と会社志向どちらが大事?
下の図はレビットが組織の「顧客志向」と「会社志向」のレベルを説明するために用いた「マーケティングマトリックス」というものです。
9−1:顧客志向で会社無視
顧客には最高の関心を持ちながら、自社の利益には最低の関心しか持たない状況
1−9:会社志向で顧客無視
顧客への関心は最低だが、自社の利益には最高の関心を持っている状況
1−1:顧客も会社も無視
もはや救いようがない状況。(等、著書ではひどい言われようです)
5−5:ほどほどの顧客・会社志向
合議型の議論中心で慎重に火を消すことに努力の大部分を振り向けている無難な状況
9−9:顧客志向かつ会社志向
高い利益水準を維持しながら長期に渡って存続するにふさわしい状況
組織が理想的な「9−9」に位置するために必要なこととして、
- 現状使える特定のリソースを十分活用する
- 提供できるベネフィットを高めるため積極的に他社と提携する
- 現在のプロダクトやサービスの付加価値を高める
- 顧客コミュニケーションを統合し強く印象的なものにする
- 長期的な計画をつくる
以上の5つのポイントを上げています。
また「9−9」の状態を推進するための中心的なスローガンは「欲求を発見せよ。そしてその欲求を満たせよ。」という言葉で表現しています。
「欲求の発見」は顧客に向けた目、「欲求を満たす」は会社に向けた目だと説いています。
ここでも「顧客」と「会社」どちらかに偏るのではなく、どちらも高いレベルで満たすことを目指しています。
3.マーケティングを誤解させない。ただし過信もさせない。
さらにマーケティングは、「販促や宣伝をすること」と勘違いされることがよくありますが、
レビットはマーケティングを「手軽な販売や宣伝のテクニックだけを問題にする単なる一機能ではなく、企業プロセス全体を統合する思想」だと説明します。
これはマーケティングが企業活動の全体に影響を与えうるものだということを説いていますが、
それと同時に「いかなる場合でも切り札であると主張することは間違っている」と戒めています。
それはマーケティングを扱うことへの過信や過大評価を抑え、「双方をバランスさせることが重要」という、問題の本質を捉えていたからではないかと思います。
マーケティングは使い方や活かし方によっては、組織活動やブランド、プロダクト、サービス等の行く末にとても大きな影響を与えるものに成り得ます。
ただいつでも「マーケティングですべてを満たしてはならない」というレビットの言葉を胸に刻み、マーケティングがよりよく理解され、適切に活かされていくよう心がけていきたいと思います。