COLUMN
マーケティング・デモクラシーとエンパワーメントという考え方
既存のヒエラルキーを壊すために
先日、あるアーティストの方と話す機会がありました。
その方はDJ活動からラップトップPCを用いたライブ形式の活動へとシフトし、オリジナルの電子音とフィールドレコーディングによって録りためた自然音・環境音の音素材を融合した「視覚化できる音」を世界に発信している方です。
同時に日本の郷土芸能を普及するために、その価値を世界に伝える活動も行っています。
ある作品では、野外で夜、虫の声を聞いていたときにそこに「ある程度の規則性とレイヤー感がある事」に気付き、
それを電子化できないか着手したところ、当時の技術の問題で、虫一匹一匹をサイン波から加工し、それを手作業でシーケンス組みしたため、制作期間は12ヶ月あまりかかったとのことで、
実際に作品も聞かせていただきましたが、その着眼点や考え方には新規性、独自性があり大変興味深いものでした。
そのアーティストの方が「日本の楽器が世界の中で果たした役割」について書かれた面白い記事があるとのことで、「Rolling Stone Japan」に掲載された若林恵さんの記事を紹介してくれました。
冒頭の一文は、その記事の中で見出しとして最初に取り上げられている言葉です。
1.今までそれを持てなかった人たちに力を与える
記事の中ではこうも語られています。
日本のものづくり、ここでは楽器に絞って言ってもいいんですけど、その価値は、「それまで声を持てなかった人たちに声を与えた」ということのような気がするんです。要はエンパワーメントということです。
自分たちが抱える困難と、その中で感じている苦しみや辛さを音楽として表現するためには、それまでにはなかった「新しい声」が必要になること。
それに対し、日本のプロダクトは性能がよく価格も手頃で、西洋のような歴史性も背負っておらず、理想的なツールであったこと。
日本のプロダクトはずっと理念的には、人々が「新しい声」を表現するための「デモクラティック(民主的)」なものであったことなどが書かれていました。
私は、今まで音楽や楽器をこのような視点で見たことはなかったため、とても新鮮な視点であり、新たなものの見方を提示してもらった思いがしました。
2.多くの人がそれを使えるよう解放していく
ロックについても「反体制の音楽」という側面ばかりを見るのではなく、当時音楽の訓練をまったく受けていない若者たちが自由に自己表現ができるように、
それまで非常にハードルの高かった「器楽演奏」というものをあらゆる人に解放したという表現をしています。
さらにそれはものづくり全般にも波及しています。
スティーブ・ジョブズも「マッキントッシュ」に「クリエイティビティの解放」の夢を授けたことや、
ジル・サンダーが「ユニクロとなぜコラボレーションするのか?」と問われたときに「ユニクロの服はデモクラティックな服だと思う」と答えたエピソードなども紹介しており、
音楽やコンピュータや洋服も、当初は価格帯にそのまま階層のヒエラルキーが対応しているものであったところ、それを破壊し民主化し、多くの人に解放、力を与えていったという点で共通点があるというのです。
3.世界を見る視点の転換
もう一つ、興味深いエピソードとして、雑誌でアフリカ特集を組む際にナイジェリアに取材にいった時のことが書かれています。
その中では、ナイジェリアで漫画を書いている方たちが、日本の漫画「NARUTO」が大好きな理由をこのように話していたと言います。
「日本の漫画やアニメと出会うまで、『主人公は金髪の白人じゃなきゃいけないんだ』と思っていた。でも、日本の漫画を見て初めて『そうでなくてもいいんだ』『日本人が主人公でもいいんなら自分たちでもいいんだ』って気づいた」
これは世界を見る視点の転換です。
日本のコンテンツが、彼らにそれまでとは全く異なる視点を与えたことになります。
漫画というコンテンツを通じ、今まで持っていなかった武器を、彼らのものとして与えたということにもなるのだと思います。
4.マーケティング・デモクラシーとエンパワーメント
これらの話を聞いたとき、私は改めて自分がやりたいことはこれだと感じました。
私たちは活動のコンセプトとして
Marketing for all, Marketing for 0
すべての人にマーケティングを、マーケティングは可能性を創造する
ということを掲げています。
マーケティングはすべての人が使えるものであり、すべての人に力を与えるものだと考えています。
マーケティングもどこか専門家がやるものと言った雰囲気があります。
ですが私はそうは思っていません。
むしろマーケティングは水のようなものであり、すべての人にとって自然に必要なもので、それを生かして可能性の芽を育てていけるものだと思っています。
多くの人の手に届き、役に立つものになるべきと考えています。
これからもマーケティングをデモクラティックにしていくために、また小さな会社やまだ可能性の開いていない新たな事業、人たちに力を与えていくことを志し、活動を続けていきたいと思います。